
電子カルテ義務化は本当?2030年目標の意味とクリニック院長が判断すべきポイント
「2030年までに電子カルテが100%普及する」という目標を受け、「自院も導入が必要なのか」と気になっている院長も多いのではないでしょうか。2026年7月時点では、医療機関に電子カルテ導入を義務付ける制度はありません。本記事では、2030年目標の意味や標準仕様・標準型電子カルテ・認証制度の違いを整理し、院長が検討する際の判断ポイントを解説します。
「2030年までに電子カルテが100%になる」と聞き、「自院も導入が必要なのか」と不安を感じている院長も多いでしょう。結論から言うと、2026年7月時点で医療機関への電子カルテ導入義務はありません。
この目標の根拠は、2025年12月に臨時国会で成立した医療法等改正法です。これにより地域医療介護総合確保法に「2030年12月31日までに電子カルテの普及率を約100%とする」という目標が書き込まれました(以下「改正法」)。医療分野の情報化に、年限つきの数値目標が明記されたことになります。
この規定をめぐっては、「2030年までに電子カルテを入れなければならないのか」「いま使っているカルテを作り替えなければならないのか」という受け止めが生じました。実際に2026年7月21日の大臣記者会見では、全国保険医団体連合会がこの点を質問しています。
その点について、2026年7月21日の記者会見で厚生労働大臣が明確な説明を行いました。要点は「この目標の達成義務は政府に課されたものであり、医療機関に電子カルテの導入を義務付けるものではない」というものです。2026年3月に公表された標準仕様についても「既に電子カルテを導入している医療機関に対して、システム改修や更新を求めるものではありません」と述べています。
報道やSNSでは「電子カルテの義務化」という言い方で語られましたが、正確には義務化ではありません。では、義務でないなら何を基準に判断すればよいのか。本記事は2026年7月時点で確定している事実と、報道段階にとどまる情報を分けて整理し、判断の軸を「行政の期限に間に合うか」ではなく「加算で回収できるか」「データが出入りするか」の2つに置き換えます。なお電子カルテを含む医療DX全体の導入率や投資の優先順位はクリニック医療DXの全体設計で扱っています。本記事は「義務なのかどうか」という制度面に絞ります。
結論:電子カルテの義務化はされていない
先に結論を述べます。2026年7月時点で、医療機関に電子カルテの導入を義務付ける法令はありません。導入していないことに対する罰則もなく、期限までに導入しなければ保険医療機関の指定を失うといった仕組みも設けられていません。改正法に置かれた「2030年12月31日までに普及率約100%」という規定は、条文の主語が一貫して「政府は」であり、達成義務を負うのは政府です。
2026年7月21日の大臣会見は、この点を含めて次の4つを整理する内容でした。
- ✓普及目標の達成義務は政府に課されている改正法の規定は政府に対する義務であり、医療機関に電子カルテの導入を義務付けるものではないと明言されている
- ✓既存カルテの継続利用が明言されている2026年3月公表の標準仕様はベンダー向けであり、導入済みの医療機関にシステム改修や更新を求めるものではない。開発中の標準型電子カルテも導入義務ではない
制度上の結論は「医療機関への導入義務はない」です。ただし、診療報酬や情報連携の面では、今後対応を検討する場面が増える可能性があります。
一方で「義務ではない」ことは「何も動いていない」ことを意味しません。後述するとおり、義務ではない領域で施設基準の届出は着実に増えています。だからこそ、院長が判断基準にすべきなのは「2030年までに間に合わせること」ではなく、自院にとって投資効果があるか、将来的な情報連携に対応できるかという点です。具体的には「診療報酬の加算で投資を回収できる見通しがあるか」と「他院・患者・薬局とのあいだでデータが出入りする必要があるか」の2点です。
※ 本記事は2026年7月時点で公表されている資料に基づいて整理しています。制度は今後変わる可能性があるため、実際の判断時には最新の告示・通知および所轄の地方厚生局の案内を確認してください。
2026年7月21日の大臣答弁で確認された3点
2026年7月21日9時40分から9時51分にかけて、厚生労働省内の会見室で行われた大臣記者会見において、電子カルテに関する3点の質問(質問者は全国保険医団体連合会)に対する回答が示されました。厚生労働省が公開している大臣記者会見概要(令和8年7月21日)の該当部分は次のとおりです。
「先の臨時国会で成立した医療法等改正法により、地域医療介護総合確保法に、電子カルテの普及目標に関する規定が盛り込まれました。この規定の目標達成の義務は政府に課されたものであるので、医療機関に電子カルテの導入を義務付けるものではありません。また、現在、開発中の標準型電子カルテ・導入版は、紙カルテを使用している診療所であっても利用できるよう、シンプルな画面設計としつつ、電子カルテ情報共有サービスによる情報連携が行えるようにする予定です。これについても導入を義務付けているものではありません。また、本年3月に公表した電子カルテの標準仕様は、電子カルテベンダー向けにお示ししたものであり、既に電子カルテを導入している医療機関に対して、システム改修や更新を求めるものではありません。医療機関が、現在利用している電子カルテを継続して利用いただくことは可能です。ただ、こうした電子カルテは全国的な情報連携ができる、あるいは、セキュリティのレベルがチェックできるなど、メリットも大きいと考えているので、そうした標準仕様に準拠した電子カルテを利用していただくということは期待しているところです。」
この3点を、院長の立場での意味に翻訳すると次のように整理できます。
| 答弁の要旨 | 位置づけ | 医療機関にとっての意味 |
|---|---|---|
| 普及目標の達成義務は政府に課されたものであり、医療機関に導入を義務付けるものではない | 改正医療法(地域医療介護総合確保法に置かれた規定)の解釈 | 電子カルテを導入していないこと自体が法令違反になる仕組みはない |
| 開発中の標準型電子カルテ・導入版は紙カルテの診療所でも利用できるシンプルな画面設計とし、電子カルテ情報共有サービスによる情報連携が行えるようにする予定。これも導入義務ではない | 開発中のシステムの設計方針 | 紙カルテを続けてきた医院にとって選択肢が増える方向。ただし使う義務はない |
| 2026年3月公表の標準仕様はベンダー向けであり、既に導入済みの医療機関にシステム改修や更新を求めるものではない。現在のカルテの継続利用は可能 | 標準仕様書の位置づけ | 手元のカルテを作り替える必要はない。ただし標準仕様に準拠したカルテの利用は「期待している」とされている |
実務上いちばん誤解が生じやすいのは3点目です。「標準仕様が公表された」という報道だけを見ると、既存のシステムに改修命令が出たように読めてしまいます。しかし公式の説明は逆で、対象はベンダー、既存カルテは継続利用可です。保守契約が続いている医院が、標準仕様の公表を理由に更新を急ぐ必要はありません。
※ 一部の医療関係サイトでは、この最後の部分が「望ましいと考えている」と要約されている例が見られます。厚生労働省が公開している会見録の文言は「期待しているところです」であり、本記事では公式記録の表現に従っています。
2030年末100%目標は「誰に課された目標」なのか
不安の出発点になった条文そのものを確認しておきます。厚生労働省が社会保障審議会医療部会に提出した「医療法等の一部を改正する法律の成立について」に示された規定は次の文言です。
「政府は、令和12年12月31日までに、電子カルテの普及率が約100%となることを達成するよう、クラウド・コンピューティング・サービス関連技術その他の先端的な技術の活用を含め、医療機関の業務における情報の電子化を実現しなければならない。」
令和12年12月31日は2030年12月31日にあたります。読むべきポイントは主語が「政府は」であること、そして「しなければならない」という義務の文言がかかっているのも政府だということです。条文のなかに、医療機関を主語とする義務規定は置かれていません。医療機関に対する届出義務・報告義務・罰則も規定されていません。
この規定は、政府提出の当初案に含まれていたものではなく、衆議院による修正で追加されたものです。国会審議では「なぜ100%ではなく『約100%』なのか」という問いが出ており、修正の提出者は「できる限り多くの医療機関に電子カルテを導入していただけるよう100%とせずに約100%としたもの」と答弁しています。全施設の完全導入を前提にすると、規模や診療形態によって導入が難しい医療機関が生じることを織り込んだ表現、という趣旨です。
あわせて、法案に付された附帯決議にも医療機関への義務や罰則を示す文言はありません。内容は政府に対する財政支援の要請などにとどまります。つまり法律の条文・修正提出者の答弁・附帯決議のいずれをたどっても、医療機関側の義務は現れません。
もっとも、「2026年7月時点で義務付けはない」ことと「今後も一切変わらない」ことは別です。今後変化が起きるとすれば、それは医療法の義務規定としてではなく、診療報酬改定における施設基準の要件や、補助制度の対象要件という形で現れる可能性が高い領域です。院長として定点観測すべき場所は、この2つだと考えておけば十分です。
標準仕様・標準型電子カルテ・認証制度を混同しない
2026年前半に相次いで報じられた話題は、実は対象も確定度もまったく違う3つの別物です。ここが混ざると「結局いつまでに何をすればいいのか」が分からなくなります。名称・対象・時期・求められること・確定度で分けて整理します。
| 名称 | 対象は誰か | 時期 | 医療機関に求められること | 確定度 |
|---|---|---|---|---|
| 中小病院向け/医科診療所向け 電子カルテ及びレセプトコンピュータ標準仕様書(基本要件)1.0版 | 電子カルテベンダー | 2026年3月31日に公表 | 現行カルテの改修・更新は求められない。継続利用が可能 | 確定(公表済み) |
| 標準型電子カルテ・導入版 | 医療機関(利用は任意) | 開発中。提供時期・費用は未公表 | 導入義務はない。紙カルテの診療所でも利用できる設計を想定と答弁されている | 開発中 |
| 電子カルテ製品の認証制度 | ベンダーの製品(医療機関ではない) | 2027年春に認証を始めると報じられている | 現時点で医療機関に求められる対応は示されていない | 報道段階 |
1つ目の標準仕様は、正式には「中小病院向け電子カルテ及びレセプトコンピュータ標準仕様書(基本要件)」および「医科診療所向け電子カルテ及びレセプトコンピュータ標準仕様書(基本要件)」で、1.0版が2026年3月31日に公表されています(厚生労働省 標準仕様のページ)。名称に「レセプトコンピュータ」が併記されているとおり、カルテ単体ではなくレセコンを含めた基本要件を示す文書です。ただし前章のとおり、宛先はベンダーであり医療機関ではありません。
2つ目の標準型電子カルテ・導入版は、国が開発を進めているシステムです。大臣答弁では「紙カルテを使用している診療所であっても利用できるよう、シンプルな画面設計としつつ、電子カルテ情報共有サービスによる情報連携が行えるようにする予定」と説明されています。提供開始時期・費用・機能の詳細は公表されていません。紙カルテを続けてきた医院にとっては将来の選択肢が増える話ですが、いま何かを決める必要がある話ではありません。
認証制度は「報道されている段階」であり、対象範囲は未確定
3つ目の認証制度は、厚生労働省の正式な発表文書として逐語で確認できる段階には至っていません。日本経済新聞は2026年7月22日に、厚生労働省が中小病院や診療所向けの電子カルテ製品の認証制度を創設すると報じました。当該記事は会員限定のため編集部では全文を確認できておらず、以下は公開部分および他媒体の報道の範囲です。伝えられている内容は、今夏にも詳細な要件を公開し2027年春に認証を始める、クラウド上で動く製品を対象とする、認証を受けた製品の導入補助も検討する、といったものです。
ここで注意が必要なのが対象範囲です。「クラウド上で動く製品を対象とする」と報じられている一方で、厚生労働省の作業グループ関連資料には「オンプレミス型等の電子カルテが活用されることも想定される」旨の記載があります。国が共同開発している標準型電子カルテがクラウド前提であることと、ベンダー製品全体を対象とする認証制度の範囲は別問題である可能性があり、「クラウド型のみが対象でオンプレミス型は対象外」と断定することはできません。対象範囲は詳細要件の公表を待って判断する必要があります。
認証開始までの詳細なスケジュールについても、専門メディアの報道を積み上げた情報であり、厚生労働省の正式発表文書からの逐語確認はできていません。認証製品への導入補助についても、現時点では「検討されていると報じられています」以上のことは確認できていません。いずれも、これを前提に更新時期を前倒ししたり後ろにずらしたりする段階にはないと考えるのが妥当です。
※ 上記のうち標準仕様書と大臣答弁は公表資料で確認済み、認証制度は報道に基づく記載です。認証制度の要件・時期・補助の有無は、公表され次第内容が変わる可能性があります。
義務でなくても届出は動いている
制度としては義務ではない。それでも現場では変化が起きています。それを最もはっきり示すのが施設基準の届出状況です。2026年7月22日の中医協(中央社会保険医療協議会)総会に報告された資料(総-4-1「主な施設基準の届出状況等」)から、令和7年(2025年)8月1日現在の状況として、診療所に関係する項目を抜き出します。
| 項目 | 病院(令和7年=2025年8月1日現在) | 診療所(令和7年=2025年8月1日現在) | 診療所の前年比 |
|---|---|---|---|
| 医療DX推進体制整備加算 | 4,622 | 47,166 | +13,997 |
| 情報通信機器を用いた診療に係る基準 | 1,434 | 12,598 | +1,610 |
| 機能強化加算 | 1,398 | 14,630 | +497 |
※ 単位は施設数。令和6年(2024年)8月1日時点の診療所の数値は、医療DX推進体制整備加算 33,169、情報通信機器を用いた診療に係る基準 10,988、機能強化加算 14,133。病院は同順で 3,780/1,305/1,335。
※ 資料の注記のとおり、届出状況は令和5年までは7月1日現在、令和6年からは8月1日現在で取りまとめられており、集計時点が異なります。また同資料には「現時点の集計値であり、今後修正の可能性がある」と明記されています。
最も動いているのは医療DX推進体制整備加算です。診療所の届出は1年で13,997施設増え、47,166施設になりました。オンライン診療にかかる「情報通信機器を用いた診療に係る基準」も診療所で12,598施設と、1,610施設増えています。導入が義務付けられていない領域で、この規模の届出増が起きているという事実が、院長にとっての実質的な情報です。
ただし増加幅の解釈には注意が必要です。医療DX推進体制整備加算は令和6年6月に新設された加算であり、比較の起点である令和6年8月時点(33,169施設)は制度開始直後にあたります。したがって令和7年8月(47,166施設)への増加には、「制度開始から2年目にかけて届出が広がった」という立ち上がり局面の側面が含まれます。要件の見直しが増加の主な要因だと断定できる一次資料は確認できていないため、本記事では原因を特定しません。
院長の判断に落とすと、読み取り方はシンプルです。行政の期限ではなく「加算で回収できるか」を見る。加算の届出がこれだけ伸びているという事実は、電子カルテ・オンライン資格確認・情報連携への投資が診療報酬の側で受け止められている領域であることを示しています。逆に言えば、加算要件を満たす見込みが立たない投資は、期限を理由に急ぐ必要がありません。
なお回収の見通しは、点数を調べる前に枠組みだけ作れます。①自院で算定対象になりうる患者数(月あたり)、②算定できた場合の1件あたり点数(最新の告示で確認する)、③カルテ・レセコン・情報連携にかかる月額費用。この3つを同じ表に並べ、①×②×10円が③を上回るかどうかを見ます。なお、加算点数や導入費用は改定や製品構成によって変動するため、本記事では個別の金額比較ではなく判断方法に焦点を置いています。②は告示、③はベンダーの見積りで埋めてください。この1枚が埋まらない投資は、期限を理由に急ぐ必要がありません。
※ 加算の点数や施設基準の個別要件は診療報酬改定で見直されます。届出を検討する際は、必ず最新の施設基準の告示・通知および所轄の地方厚生局の案内で要件を確認してください。
立場別に見る「いま動くか、待つか」の判断
ここまでの事実を、自院の状況に当てはめます。判断が分かれるのは制度の解釈ではなく、自院のシステムがいまどの段階にあるかです。行政の期限を起点にすると全院が同じ結論になってしまいますが、実際には起点にすべきタイミングは医院ごとに違います。
| 自院の状況 | 判断の起点になるタイミング | いま検討する理由 | 待ってよい理由 |
|---|---|---|---|
| 紙カルテを継続している | レセコンの保守満了、承継の予定、受付スタッフの体制が変わる時期 | レセコンや受付まわりの入れ替えと同時に検討すると、投資と現場の混乱が一度で済む | 導入義務はなく、2030年の目標は政府に課されたもの。行政の期限を理由に急ぐ必要はない |
| オンプレ型を使用中で保守満了・更新期が近い | 現行システムの保守期限とサポート終了時期 | どうせ更新するなら、情報連携や加算要件への対応可否を含めて比較できる | 標準仕様は改修命令ではない。保守が続いている間は現行カルテの継続利用が可能 |
| これから開業・承継する | 開業日・承継日から逆算した準備期間 | 受付・カルテ・レセコン・会計・情報連携をまとめて設計できる唯一のタイミング | 待つ利点は小さい。ただし製品の選定自体は、認証制度の詳細要件の公表状況も見ながら進められる |
| クラウド型を導入済みで加算も取得している | 次回の診療報酬改定と、契約・保守の更新時期 | すでに土台はある。次の論点は情報連携の範囲を広げるかどうか | 追加投資は改定内容と自院の患者動向を見てからでも遅くない |
紙カルテを続けている医院:判断のタイミングは自院側にある
この記事でいちばん伝えたいのはこの層に対してです。判断のタイミングは、行政が示した2030年という年限ではなく、自院のレセコン保守満了・承継予定・スタッフ体制で決めていい。これは推測ではなく、条文の主語が「政府は」であり、大臣答弁が「医療機関に電子カルテの導入を義務付けるものではありません」と明言していることから導かれる帰結です。
開業から15年、20年と紙カルテで診療を続けてきた医院では、記録の作法・診療の流れ・スタッフの分担が紙を前提に最適化されています。ここに外から期限を持ち込むと、必要のない投資と、必要のない混乱が同時に起きます。動くべききっかけは「2030年が近づいたから」ではなく、レセコンの保守が終わる/承継の話が具体化した/受付の人員体制が変わるといった自院側の事情です。
そのうえで、将来の選択肢としては覚えておくとよい事実が1つあります。開発中の標準型電子カルテ・導入版は「紙カルテを使用している診療所であっても利用できるよう、シンプルな画面設計」を想定すると答弁されています。ただし時期・費用・機能の詳細は公表されておらず、導入義務でもありません。いま何かを決める必要はなく、続報を待てば足ります。
なお、いずれ紙から電子に移すと判断したときに実務で問題になるのは、製品選定よりも移行期です。過去のカルテをどこまで電子化するのか(すべてスキャンするのか、移行日以降だけ電子にするのか)、紙と電子の並行運用をどれだけの期間置くのか、受付とレセプト業務の担当をどう組み替えるのか。ここを決めずに稼働日だけ先に決めると、外来が止まります。検討を始める段階で、同規模・同じ診療科で紙から移行した事例をベンダーに出してもらうのが最短です。
オンプレ型で保守満了が近い医院:「標準仕様=改修命令」ではない
この層で最も多い誤解が「標準仕様が公表されたから、いまのシステムを作り替えなければならない」というものです。標準仕様書はベンダー向けの文書であり、既に導入している医療機関に改修や更新を求めるものではありません。標準仕様の公表を理由に、保守期間の途中で更新を前倒しする必要はありません。
一方で、もともと保守満了やサポート終了が近いなら話は別です。更新は遅かれ早かれ発生するため、そのタイミングで確認すべき項目が増えたと捉えるのが実務的です。具体的には、情報連携(電子カルテ情報共有サービスへの接続)の可否と追加費用、加算の施設基準を満たすために必要な機能の対応状況、そして移行時のデータ持ち出し条件です。次章のチェックリストがそのまま使えます。
なお認証制度については、対象範囲が「クラウド上で動く製品」に限られるのかどうかを含めて未確定です。認証の有無を選定条件に組み込むのは、詳細要件が公表されてからで十分です。現時点では、ベンダーに「認証制度が始まった場合の対応方針」を質問として投げておく程度が現実的な備えになります。
導入済みの医院:次の論点は「データが出入りするか」
すでにクラウド型の電子カルテを運用し、医療DX推進体制整備加算も届出済みという医院にとって、今回の一連の動きは「自院は済んでいる」という確認にとどまります。次の論点は導入の有無ではなく、データがどこまで出入りしているかです。
診療所の届出状況を見ると、医療DX推進体制整備加算が47,166施設に達している一方、情報通信機器を用いた診療に係る基準は12,598施設です。ただし両者は施設基準も対象となる診療の形も異なるため、この差がそのまま「遅れ」を意味するわけではありません。それでも届出数に4倍近い開きがあること自体は、患者接点側の連携にまだ広がる余地があることを示しています。来院前の情報取得を厚くしたいならWeb問診、再診・慢性疾患の継続管理に幅を持たせたいならオンライン診療が、カルテを起点に接続できる次の領域になります。
この層に必要なのは新たな危機感ではなく、ベンチマークです。届出が伸びている項目のうち自院が押さえていないものはどれか、それは自院の患者層にとって意味があるのか。この2問だけ確認すれば十分です。
更新・新規導入でベンダーに確認する7項目
実際に更新や新規導入に進むとき、2026年7月時点の状況をふまえて確認すべき項目は次の7つです。制度が動いている時期なので、機能比較の前に「制度対応の方針」を文書で確認しておくことが後の追加費用を防ぎます。
- ✓① 標準仕様書(基本要件)への対応方針と時期2026年3月31日公表の1.0版に対して、どのバージョンでいつ対応する方針か。対応は無償アップデートか有償か。医療機関側の作業が発生するか
- ✓② 電子カルテ情報共有サービスへの接続可否接続に対応しているか、対応予定か。オプション契約や追加費用、必要なネットワーク要件を金額で確認する
- ✓③ 認証制度が始まった場合の対応方針報道段階であることを前提に、要件が公表されたら認証取得を目指す方針か、費用負担は誰か。回答が「未定」でも記録として残す
- ✓④ レセコンとの関係と更新費用の切り分け一体型か別製品か。レセコン側の更新費が別建てになるか、改定対応の費用は月額に含まれるか。レセコン単体の比較もあわせて検討する
- ✓⑤ 加算の施設基準に必要な機能の対応状況自院が算定を検討している加算について、必要な機能が標準搭載かオプションかを確認する。要件そのものは最新の告示・通知および地方厚生局の案内で確認することが前提
- ✓⑥ データの持ち出し方法と費用解約・乗り換え・サービス終了時に、診療記録をどの形式で書き出せるか。作業は誰が行い、費用は誰が負担するか。契約書のどこに書かれているか
- ✓⑦ サポート終了時期と5年間の総額現行製品のサポート終了予定と、初期費用・月額・改定対応費・更新費を合算した複数年の総額。見積りは同じ前提条件で2〜3社に依頼する
7項目のうち、制度が動いている時期にとりわけ重いのは①②⑥です。①と②は「いま買うものが、これから広がる情報連携の枠組みに乗れるか」を決めます。⑥は、仮に数年後に方針が変わっても身動きが取れる状態を保つための保険です。逆に、③の認証制度を選定の必須条件にするのは時期尚早です。対象範囲すら確定していないため、条件に組み込むと不要にベンダーを絞ることになります。
見積りを比べるときは、初期費用/月額/改定対応費/情報連携オプション費/ハードウェア費/移行費/最低契約期間と解約条件を同じ並びで揃えてください。項目が揃っていない見積りは金額の大小を比較できません。
なお本記事では製品ごとの費用相場は扱いません。構成とオプションで幅が大きく、単純な平均が判断に使えないためです。電子カルテは料金を公開していない製品も多く、電子カルテの一覧ページで各社の掲載状況と問い合わせ先を確認したうえで、同じ条件で見積りを取るのが確実です。
よくある質問
電子カルテを導入しないと、2030年に閉院しなければならないのですか?⌄
いいえ、そのような仕組みはありません。改正法の規定は「政府は、令和12年12月31日までに、電子カルテの普及率が約100%となることを達成するよう…実現しなければならない」という文言で、主語は政府です。2026年7月21日の大臣会見でも「この規定の目標達成の義務は政府に課されたものであるので、医療機関に電子カルテの導入を義務付けるものではありません」と明言されています。導入していないことに対する罰則も、期限による保険医療機関の指定の扱いを変える規定もありません。ただし将来にわたって一切変わらないと保証できるものではなく、変化が起きるとすれば診療報酬改定の施設基準や補助制度の要件という形になります(2026年7月時点)。
2026年3月に公表された標準仕様に合わせて、いまのシステムを更新する必要はありますか?⌄
必要ありません。標準仕様(1.0版・2026年3月31日公表)は電子カルテベンダー向けに示されたもので、大臣答弁でも「既に電子カルテを導入している医療機関に対して、システム改修や更新を求めるものではありません。医療機関が、現在利用している電子カルテを継続して利用いただくことは可能です」と説明されています。ただし標準仕様に準拠したカルテの利用は「期待しているところです」とも述べられています。更新のタイミングは自院の保守期限で判断し、そのときに標準仕様への対応方針を確認するのが現実的です。
標準型電子カルテはいつから使えて、費用はかかりますか?⌄
2026年7月時点では開発中で、提供開始の時期・費用・機能の詳細はいずれも公表されていません。大臣答弁で示されているのは設計方針で、「紙カルテを使用している診療所であっても利用できるよう、シンプルな画面設計としつつ、電子カルテ情報共有サービスによる情報連携が行えるようにする予定」とされています。あわせて「これについても導入を義務付けているものではありません」と明言されています。したがって、紙カルテを続けている医院にとっては将来の選択肢が増える話であり、いま導入の是非を決める必要はありません。詳細が公表された段階で、自院の運用に合うかを判断すれば足ります。
医療DX推進体制整備加算を取るには電子カルテが必要ですか?⌄
この加算は電子カルテの有無だけで決まるものではなく、複数の要件の組み合わせで構成されています。要件は診療報酬改定で見直されるため、算定できるかどうかは最新の施設基準の告示・通知と、所轄の地方厚生局が公表している届出の様式・記載事項で確認してください(本記事では個別要件を列挙しません)。確認先が分かれば、あとは「その要件を満たす機能があるか」をベンダーに聞く形に落とせます。事実として確認できているのは届出の動きです。2026年7月22日の中医協総会に報告された資料では、この加算の届出は診療所で47,166施設(前年比13,997施設増)、病院で4,622施設となっています。義務付けのない領域でこれだけ届出が増えているという点が、投資判断の材料になります。なお同資料は令和5年までは7月1日現在、令和6年からは8月1日現在の集計であり、「現時点の集計値であり、今後修正の可能性がある」と注記されています。
紙カルテのままだと、他院や患者との情報連携で不利になりますか?⌄
2026年7月時点で、紙カルテであること自体を理由に不利益な扱いを受ける仕組みはありません。制度の方向性は「紙カルテが排除される」というより「電子的に連携できる選択肢が増えていく」というものです。開発中の標準型電子カルテ・導入版も、紙カルテを使用している診療所でも利用できる設計を想定すると答弁されています。判断のタイミングは行政の期限ではなく、自院のレセコン保守満了・承継予定・スタッフ体制で決めて差し支えありません。
まとめ
2026年7月時点の事実を整理すると、次の3点に尽きます。第一に、医療機関に電子カルテの導入を義務付ける法令はありません。改正法の「2030年12月31日までに約100%」という規定は、主語が「政府は」であり、達成義務を負うのは政府です。第二に、2026年3月公表の標準仕様はベンダー向けで、既存カルテの改修・更新を求めるものではありません。現行カルテの継続利用は可能で、標準仕様に準拠したカルテの利用は「期待している」という位置づけです。第三に、認証制度は報道段階で、対象範囲も導入補助の有無も確定していません。
そのうえで、義務ではない領域で届出は動いています。医療DX推進体制整備加算の届出は診療所で47,166施設に達し、1年で13,997施設増えました。だからこそ判断軸は「期限に間に合うか」ではなく、「加算で回収できるか」と「データが出入りする必要があるか」の2つになります。
紙カルテを続けている医院は、行政の年限ではなく自院のレセコン保守満了・承継予定・スタッフ体制で決めてください。オンプレ型で更新期が近い医院は、更新のついでに情報連携とデータ持ち出し条件を確認するだけで十分です。導入率や投資の優先順位を全体像から整理したい場合はクリニック医療DXの全体設計、患者接点側から着手する場合はクリニックのネット予約システム比較もあわせてご覧ください。自院の状況に合う候補を絞るには、無料診断もご利用いただけます。
※ 本記事は2026年7月時点で公表されている資料に基づいています。主な出典は、厚生労働省大臣記者会見概要(令和8年7月21日)、中央社会保険医療協議会総会総-4-1「主な施設基準の届出状況等」(2026年7月22日)、「医療法等の一部を改正する法律の成立について」、電子カルテ標準仕様です。認証制度の詳細要件、標準型電子カルテの提供時期・費用、施設基準の届出状況が更新された時点で本文を見直します(最終確認:2026年7月29日)。